大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和50年(ネ)1948号 判決

(不動産登記簿上の住所および商号

大阪市北区梅ケ枝町二〇〇番地丸喜商事株式会社)

控訴人

丸喜船舶株式会社

右代表者

宮崎圭右

右訴訟代理人

太田稔

外六名

(登記簿上の住所 奈良市高畑町一一七番地)

被控訴人

藪内増雄

(登記簿上の住所 奈良市高畑町一一七番地)

被控訴人

藪内トヨ

右両名訴訟代理人

本家重忠

主文

一  原判決主文第二項を取り消す。

二  被控訴人藪内増雄は、控訴人に対し、原判決添付別紙第二目録記載の物件につき、奈良地方法務局昭和四一年五月一八日受付第六三一八号でした甲区七番の所有権移転請求権仮登記および同法務局昭和四二年一月一六日受付第四六五号でした甲区七番付記一号の七番所有権移転請求権移転の付記登記の各抹消回復登記手続をせよ。

三  被控訴人藪内増雄は、控訴人に対し、右物件につき、同法務局昭和四一年五月一八日受付第六三一七号でした乙区一番の抵当権設定登記および同法務局昭和四二年一月一六日受付第四六四号でした乙区一番付記一号の一番抵当権移転の付記登記の各抹消回復登記手続をせよ。

四  被控訴人藪内トヨは、控訴人に対し、原判決添付別紙第三目録記載の物件につき、同法務局昭和四一年五月一八日受付第六三一九号でした甲区二番の所有権移転請求権仮登記および同法務局昭和四二年一月一六日受付第四六六号でした甲区二番付記一号の二番所有権移転請求権移転の付記登記の各抹消回復登記手続をせよ。

五  被控訴人藪内トヨは、控訴人に対し、右物件につき、同法務局昭和四一年五月一八日受付第六三一七号でした乙区二番の抵当権設定登記および同法務局昭和四二年一月一六日受付第四六四号でした乙区二番付記一号の二番抵当権移転の付記登記の各抹消回復登記手続をせよ。

六  控訴人のその余の控訴を棄却する。

七  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は、主文第一ないし第五、第七項同旨の判決および「原判決主文第一項を取り消す。控訴人と被控訴人藪内増雄間において、原判決添付別紙第一目録記載の物件に対する奈良地方裁判所昭和四二年(ヌ)第二〇号強制競売申立事件について、昭和四二年八月二九日にした強制競売申立取下が無効であることを確認する。控訴人と被控訴人藪内増雄間において原判決添付別紙第二目録記載の物件および控訴人と被控訴人両名間において、原判決添付別紙第三目録記載の物件に対する奈良地方裁判所昭和四二年(ケ)第二七号不動産任意競売申立事件について、同四二年八月二九日にした競売申立取下が無効であることを確認する。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は、控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

一、〈中略〉

(控訴人の主張)

1 昭和四二年八月二四日に控訴人と被控訴人らとの間で成立した合意というのは、被控訴人らが同月二五日に一〇二万円を控訴人方に持参して支払つた場合には本件任意競売および強制競売を取下げ、残債権を放棄するというものであつて、被控訴人らは前同日中に右の一〇二万円を持参しなかつたから、右の合意は効力を失つている。

2 訴外加茂川良成には代理権がなかつた。まず、加茂川は控訴人の社員ではなかつた。すなわち、加茂川は、控訴人の代表者の弟の経営する株式会社新御堂商店の社員であり、控訴人が新しく設立されたばかりで、その社員が法的知識を欠いていたので、その指導援助と書類作成の援助を目的として新御堂商店より控訴人方に派遣されていたものである。給料も新御堂商店から支払われ、加茂川への日当は控訴人から新御堂商店へ支払われていて、本人には支払われていなかつた。加茂川は勤務のほとんどを新御堂商店においてしており、控訴人方に出向くのは必要のときだけであつた。次に、控訴人は、加茂川に代理権を与えていなかつた。すなわち、加茂川が被控訴人方へ行くときは常に控訴人の社員と二人連れであつたし、印鑑は社員が所持していた。書類を加茂川が作成する場合でも加茂川自身は何の決定権をもたず、もつぱら補助的立場にあつた。このように、加茂川には何の代理権も与えられていなかつたが、とくに、被控訴人ら主張の昭和四二年八月二八日に一〇二万円を受取り、登記抹消をすることに関して代理権が与えられたことはない。控訴人が同月二五日までに一〇二万円の支払があれば競売の取下等をするということは、被控訴人らに対する恩恵にすぎず、そのまま競売手続を行つてもさほど損はなかつた。わざわざ期限を延ばし、かつ、持参払であるものを加茂川に代理権を与えて奈良の被控訴人方にまで行かせる必要は全くなかつた。

二、証拠〈略〉

理由

一控訴人の被控訴人増雄に対する強制競売申立取下無効確認の訴ならびに同被控訴人および被控訴人トミに対する任意競売申立取下無効確認の訴は、要するに、控訴人が被控訴人増雄所有の原判決添付別紙第一目録記載の物件につき申し立てた強制競売事件ならびに同被控訴人所有の同第二目録および被控訴人トヨ所有の同第三目録記載の各物件につき申し立てた任意競売事件について、昭和四二年八月二九日控訴人名義の取下書が提出されたが、右は訴外加茂川良成が右の取下書を偽造してなしたものであるから、関係被控訴人との間で右取下の無効確認を求めるというのである。しかし、右訴の趣旨が申立取下の無効そのものの確認を求めるというのであれば、過去の事実の確認を求めることになつて適法な訴ということができないし、過去の事実である申立取下の無効を控訴人と被控訴人らとの間で確定してみてもそこから派生する種々の紛争が一挙的に解決されるものでもない。また、右訴の趣旨が現に競売事件が係属中であることの確認を求める趣旨と解してみても、これを適法な訴とみることはできない。けだし、訴は一般的な権利救済方法として認められているものであるが、訴以外の特別の救済方法が認められていることがあり、本件についていうと、執行裁判所または競売裁判所が競売手続を続行しないときにはこれに不服のある利害関係人は執行方法に関する異議を申し立てることができるのである。その趣旨とするところは、右のような手続内の紛争の解決は当該手続を主宰する執行裁判所または競売裁判所に委ねるのが便宜であり、かつ、合目的的であるというにあると解されるから、法は右の執行方法の異議のほかに一般的な訴を許容しない趣旨と解するのが相当である。もしこれを反対に解するときは、執行裁判所または競売裁判所による裁判と受訴裁判所による裁判とが競合することになつて、いたずらに手続関係が混乱することになり、ひいては制度の能率的運営が阻害されることになるのである。たしかに、訴の方法によるときは、必要的口頭弁論にもとづく判決がされ、その判断には既判力が生じることになるから、決定手続で行われる執行方法の異議による場合と比較して手続、効果の点において違いが生じるが、一般的には、手続内の紛争は当該手続内に認められた方法によつて解決するだけで足りるのであつて、それ以上に相手方との関係でその紛争の解決を既判力をもつて確定する必要はないものと解される。したがつて、控訴人の本件競売申立取下無効確認の訴は、いずれも不適法として却下を免れない。〈以下、省略〉

(朝田孝 富田善哉 川口冨男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例